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電気通信主任技術者試験 過去問解説 第10回

WDMの特徴



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◆問題

平成27年度第2回(2016年1月実施)電気通信主任技術者試験の「伝送」、「交換」、「データ通信」の 問3 (3)(ⅰ)の過去問です。この3科目では、問3~問5の問題が共通となっています。

出題は、下のとおりです。アンダーラインの部分の(キ)に適した番号を選ぶ問題です。

WDMの特徴について述べた次の文章のうち、正しいものは、(キ)である。

1.3μm帯と1.5μm帯の波長を用いるなど、波長帯の異なる光信号を多重する方式は、一般に、DWDMといわれ、 相互の波長間隔が非常に広いためFP-LDが利用できる。

WDM伝送における光信号の劣化要因として、光ファイバの非線形な屈折率変化により発生する自己位相変調、 相互位相変調及び四光波混合の影響がある。このうち自己位相変調は、 ゼロ分散波長付近における位相整合の影響を特に受けやすく、 WDM伝送におけるチャネル間クロストークの主な原因となる。

WDM伝送における伝送波長数を増加する手段として、1.3μm帯に利得帯域を持つEDFAに加えて、 利得帯域を更に長波長側にシフトさせたGS-EDFAを用いる方法がある。

WDM伝送には、光波長を100 GHz間隔の周波数グリッドで配置する方法のほか、 25 GHz間隔や12.5 GHz間隔で配置する方法により、より高密度で多重化する方法がある。

◆解答

正しい選択肢は、④です。

◆解説

◇概要

WDMに関する出題です。

WDMでは、出題頻度が高いキーワードです。「伝送」、「交換」、「データ通信」の3科目共通部分の問3~問5では、 平成23年度第2回以降、毎回、何らかの形でWDMが登場しています。それだけでなく、共通科目の「伝送交換設備及び設備管理 」や「線路設備及び設備管理」でも、出題されています。

出題はいろいろな角度から出題されているので、幅広くWDMを捉える必要があります。

◇選択肢①

選択肢①は、誤った文章です。問題文で説明されているのは、DWDMではなく、正しくはCWDMです。

1.3μm帯と1.5μm帯の波長を用いるなど、波長帯の異なる光信号を多重する方式は、一般に、DWDMといわれ、 相互の波長間隔が非常に広いためFP-LDが利用できる。

WDM(波長分割多重)は、複数の異なる波長の光を使った多重伝送方式です。 原理的には、電気信号のFDM(周波数分割多重)と同じです。 多くの場合、電気信号は周波数 ×× MHzのように周波数で示されますが、 光信号の場合は波長 ×× nmのように波長で示されます。 そのため光信号の多重は、「周波数分割多重」ではなく「波長分割多重」と呼ばれています。

WDMは、多重数の違いにより、CWDMとDWDMに分類されます。多重数の少ないのがCWDM、多重数の多いのがDWDMです。 CWDMの多重数は最大でも16波長程度ですが、DWDMの多重数は数百波長、多い場合は1,000波長を越えます。 多重数が増えると大容量化が可能ですが、波長間隔が狭くなるため高い精度が求められます。そのためコストが高くなります。 CWDMは容量よりコストが優先される短中距離で、DWDMはコストより容量が優先される長距離で、それぞれ使われます。 なお、CWDMの"C"は"Coarse"の略で意味を漢字一文字で表せば「粗」、 DWDMの"D"は"Dense"の略で意味を漢字一文字で表せば「密」です。

問題文では、「波長帯の異なる光信号を多重する方式」とあります。 異なっているのは「波長」ではなく「波長帯」なので、波長の間隔が広く空いていることが読み取れます。 したがって、この場合はDWDMではなく、正しくはCWDMだということが分かります。

次は、後半のFP-LDです。 これは、LD(レーザダイオード)のひとつであるファブリペロー形LDのことです。 そしてFP-LDの改良形に、DFB-LD(分岐帰還形LD)、DBR-LD(分布ブラッグ反射形LD)があります。

FP-LD、DFB-LD、DBR-LDの図

FP-LDは、1対の向かい合わせた鏡を使った共振器を使用するLDです。 共振器の中の波長は、鏡の間で定在波ができる波長だけになります。 この共振器により誘導放出によるエネルギーが鏡の間で増幅され、レーザ光となって放出されます。 共振器の長さは、波長に比べて長いため、複数の波長が共振状態となります。 そのためFP-LD は、複数の波長のレーザ光を放出します。 このようなLDは、多モードのLDと呼ばれます。 多モードのLDでは、ある波長のレーザ光を放出しようとすると、他の周波数のレーザ光も放出されてしまいます。 波長間隔が広いCWDMならば問題はありませんが、波長間隔の狭いDWDMには不向きです。

これに対して、DFB-LDやDBR-LDは、単一モードのLDです。 つまり、DFB-LDやDBR-LDの放出する光の波長は、1つだけです。 そのため、DFB-LDやDBR-LDは、DWDMにも向いています。 DFB-LDやDBR-LDは、では、単一モードを実現するために回折格子(グレーティング)と呼ばれる素子を使っています。 回折格子は、ブラッグ反射により帰還を行います。 ブラッグ反射は特定波長の光だけを反射するため、単一モードのLD が実現できるのです。 回折格子が持つ特定波長の光だけを反射する性質は、波長選択性と呼ばれます。

◇選択肢②

選択肢②は、誤った文章です。ゼロ分散波長付近における位相整合の影響を特に受けやすいのは、 自己位相変調ではなく、正しくは四光波混合です。

WDM伝送における光信号の劣化要因として、光ファイバの非線形な屈折率変化により発生する自己位相変調、 相互位相変調及び四光波混合の影響がある。このうち自己位相変調は、 ゼロ分散波長付近における位相整合の影響を特に受けやすく、 WDM伝送におけるチャネル間クロストークの主な原因となる。

問題文にある非線形光学現象から、説明します。

非線形光学現象とは、 入射波の電界強度と電界強度によって物体中に現れる分極と呼ばれる影響の大きさが、 線形関係(グラフで示すと直線なる関係)とならない性質を持つ現象の総称です。

まず自己位相変調とは、 信号光の位相が信号光自身の強度に起因する屈折率変化により変化する現象です。 自己位相変調によるパルス圧縮が、信号光の分散と釣り合った状態になると、長距離を伝送しても波形が崩れない状態になります これは光ソリトンと呼ばれます。

次の相互位相変調は、信号光の位相が、他の信号光により変化する現象です。 自己位相変調と似ていますが、自己位相変調は信号光自身が原因であるのにたいして、 相互位相変調は他の光が原因となる点が異なります。

3点目の四光波混合とは、3つの周波数の光が混合している場合、 これらが相互作用し第4の光が生じる現象です。 元の光が3つ、新たに生じる光が加わって、合わせて4つです。 四光波混合における第4の光の波長が、他の信号光の波長と一致すると、その信号へのクロストーク(漏話)となります。 これが「WDM伝送におけるチャネル間クロストークの原因」の意味です。

四光波混合については、平成23年度第2回の伝送 問2 (1)の出題にあった下記の文章が参考になります。

四光波混合は、複数の異なる波長の光が光ファイバ中に入射されたとき、新たな波長を持つ光が生ずる現象であり、 この発生した光の波長が、DWDM信号光の波長のいずれかと一致すると、干渉性の強度雑音が発生し、 伝送特性が劣化する。四光波混合の発生効率は、位相整合条件が満たされるとき、 すなわち、入射光の波長のいずれかが光ファイバのゼロ分散波長と一致するか、入射光のうちの二つの波長が、 光ファイバのゼロ分散波長をはさんで等距離に配置されているときに最大となる。 したがって、DWDM伝送を行う場合は、光ファイバの特性を十分に考慮して、信号光の波長の配置を決める必要がある。

この文章では、「位相整合」の具体例が2つ出ています。

  • 入射光の波長のいずれかが光ファイバのゼロ分散波長と一致する。
  • 射光のうちの二つの波長が、光ファイバのゼロ分散波長をはさんで等距離に配置されている。

特に重要なのは、1点目です。四光波混合はゼロ分散波長で顕著に現れます。 ゼロ分散波長とは、文字通り、この分散がゼロとなる波長です。 長距離の伝送ではパルス波形の崩れを抑えるため、分散をゼロに近づける必要があります。 しかし分散がゼロになると、四光波混合の影響が大きくなります。 そのため光ファイバの分散制御では、 局所的には分散を微妙にゼロからずらし、全体的には分散をゼロにすることを行っています。

◇選択肢③

選択肢③は、誤った文章です。EDFAの利得帯域は、1.31μm帯ではなく、正しくは1.55μm帯です。

WDM伝送における伝送波長数を増加する手段として、1.3μm帯に利得帯域を持つEDFAに加えて、 利得帯域を更に長波長側にシフトさせたGS-EDFAを用いる方法がある。

EDFA(エルビウム添加光ファイバ増幅器)とは、 光ファイバのコアの石英ガラスにエルビウム(Er)を添加させ、光増幅機能持たせた増幅器です。 エルビウム(Er)の発光の中心周波数は1.54μmで、1.55μmとほぼ一致しています。 そのため、EDFAは、波長1.55μm帯の信号光を増幅するために使われます。 したがって、「1.3μm帯に利得帯域を持つEDFA」が誤りです。

近年では、光ファイバの特性が向上し、1.55μm帯より長波長の領域が利用できるようになりました。 使用できる周波数領域が広がれば、多重数を増やせるので、より大容量の通信が可能になります。 しかし、エルビウム(Er)の発光の中心周波数は1.54μmであるため、 元々のEDFAは1.55μm帯の光信号しか増幅することはできません。 そこで長波長領域での増幅ができるように利得特性を調整されたEDFAが登場しました。これが、GS-EDFAです。 "GS"は、"Gain Shifted"の略で、利得が得られる周波数をシフトさせていることを意味します。 なお、1.55μm帯より長波長の1.565~1.625μm帯はLバンドと呼ばれるため、GS-EDFAはLバンドEDFAとも呼ばれます。

◇選択肢④

選択肢④は、正しい文章です。

WDM伝送には、光波長を100 GHz間隔の周波数グリッドで配置する方法のほか、 25 GHz間隔や12.5 GHz間隔で配置する方法により、より高密度で多重化する方法がある。

DWDM伝送における光波長の間隔は、ITU-T勧告G.694.1において周波数グリッドとして規定されています。 なぜか、波長の間隔ではなく、周波数の間隔で規定されています。 その間隔は、12.5 GHz間隔、25 GHz間隔、50 GHz間隔、100 GHzおよび100 GHzの整数倍です。

周波数の間隔を小さくすれば、波長の間隔も小さくなるので、より高密度で多重化できます。

なお、CWDM伝送における光波長の間隔は、ITU-T勧告G.694.2において、波長グリッドが20 nm間隔と規定されています。

◇ITU-T勧告を確認したい場合は

余談ですが、ITU-T勧告の調べ方についてです。

ITU-T勧告の内容を確認したい場合は、インターネットから無料で入手できます。 しかしITU-T勧告は、残念ながら英文で書かれています。(規格によっては、他の外国語もありますが。) 英語が堪能な方は別ですが、多くの日本人にとっては日本語の規格に比べて労力がかかります。

ここで役に立つのが日本のTTC(一般社団法人情報通信技術委員会)の標準です。 ITU-T勧告のいくつかは、TTC標準に取り入れられています。 たとえば、DWDMの周波数グリッドを規定しているITU-T勧告G.694.1の規定は、TTC標準ITU-T勧告G.694.1でも確認できます。 TTC標準の規格の番号も、ITU-T勧告の番号を踏襲しています。 規格の内容がすべて同じであるとは限りませんが、大筋は同じです。試験対策の勉強で使う程度ならば、十分に代用可能です。 ITU-T勧告の原文を調べるときでも、日本語のTTC標準てアタリを付けてから英文を読むと、探す時間を短縮することもできます。

TTC標準もインターネットから無料で入手できます。 ITU-T勧告の内容を確認したい場合は、TTC標準も併せてご活用ください。